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〈第2部 前編〉第7回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岡山 2020 ~改革と挑戦〜

2020年9月14日(月)、「第7回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岡山 2020」が、さん太ホール(山陽新聞社)を会場に開催されました。

フォーラムは「長寿企業経営者が考える、ウィズコロナの今、行うべき決断、事業継承の秘訣とは?」をテーマにディスカッションが行われました。

第1部パネルディスカッションは「⻑寿企業経営者の葛藤と知恵」と題して、事業を次代に渡す立場の3社3名に、第2部パネルディスカッションは「⻑寿企業後継者の苦悩と⾰新」として後継者の立場の3社3名にご登壇いただきました。

第1部 登壇企業
株式会社いのうえ
株式会社丸五
株式会社廣榮堂

第2部 登壇企業
菅公学生服株式会社
両備ホールディングス株式会社
髙田織物株式会社

岡山の老舗企業によるフォーラムの様子を、5回に分けてお伝えしていきます。

〈第1部 前編〉第7回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岡山 2020 ~覚悟の時〜
〈第1部 後編〉第7回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岡山 2020 〜人財と地域〜
〈第2部 前編〉第7回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岡山 2020 ~改革と挑戦〜 ※本記事
〈第2部 後編〉第7回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岡山 2020 ~未来展望〜
〈番外編〉第7回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岡山 2020 〜思いを振り返る〜

本記事では、フォーラム開会の様子の紹介と、第1部パネルディスカッション「⻑寿企業後継者の苦悩と⾰新」「ターニングポイント」「改革・挑戦」という切り口で見ていきます。

ターニングポイント~苦悩から覚悟へ~

伝統を受け継ぐ使命の中、実体験し感じた本音、その裏側にある悩みや葛藤を通して覚悟を定めた瞬間とは、どんなときだったのでしょうか。

「⻑寿企業後継者の苦悩と⾰新」地方創生経営者フォーラム・岡山

菅公学生服のターニングポイント

菅公学生服 8代目 代表取締役社長 尾﨑茂氏菅公学生服 8代目 代表取締役社長 尾﨑茂氏

1854年創業の菅公学生服は、学生たちが素晴らしい学生生活を送れるように願いを込めた、“学問の神様(菅原道真公)が宿る制服”を届けています。「ものづくり」だけでなく、学校課題に向き合い解決策を探る教育ソリューション事業を通した「ひとづくり」の2つの側面から、教育現場に寄り添い、学生服の枠を超えて社会に貢献し続けています。

家業を継ぐと考えていなかったという菅公学生服の尾﨑茂氏は、社長になったとき責任の重さを感じたと語ります。

「家業を継ぐことは考えておらず、東京の大学に進学。

『卒業後は東京でコンサル業でもしよう』と考えていたところ、父親に諭され帰郷。父親が70歳前になる頃『次はお前だ』と話され、32歳で事業承継。100億の借用書へ金額記入する際に、社長である重さ・責任感を改めて実感(笑)。

事業を進める中で、競合他社は業態の多角化を図り大失敗し、また社員の能力を鑑みても我々に必要なのは広く遍くではなく、集約して『学生服に特化』することが大切と考えました。お陰様で『カンコーブランド』も一定の知名度を維持しております。

そこで、学生服を柱として捉え、一連の改革を推進した上で、社名変更 尾﨑商事 菅公学生服を社員主導で実施しました(ブランディング・プロジェクト)。」

両備HDのターニングポイント

両備HD 創業家7代目 代表取締役社長 松田敏之氏両備HD 創業家7代目 代表取締役社長 松田敏之氏

両備HDは1910年、「西大寺軌道株式会社」として創業しました。現在両備HDはグループ44社、総従業員数は1万人を超えます。2020年創業110周年を迎え、「ありがとう110周年、おもいやりで未来を創る」というスローガンの基、創業以来脈々と受け継がれてきた経営理念「忠恕」を軸に、更なる躍進を目指しています

両備HD 松田敏之氏は、自身の過去とともに、会社の過去と未来について語りました。

「次男坊で、元々何か事業をしたいという思いから、学生時代にはベンチャー企業を立上げていました。卒業後、銀行に就職。入社5年目に突如父親から『次はお前に決めたから、明日退社しろ』と電話があり帰郷(笑)。

銀行は働く環境や設備が整い仕事も現場が中心、両備はトップダウンで従業員が発言しない状態で、大きなギャップを実感。

入社してすぐ『東京で、岡山の経常利益(当時グループ合計20億)を5年以内に上げろ!』との試練を頂き、考え抜いた末、M&A事業を実施6年後に目標達成し、一気に社内での雰囲気や対応見られ方が変わりました

両備のこれまで100年は色々な業種に分散したこと(事業分散)こそ続けられた大きな要因であり、次の100年に向けては地域分散することが大切と考えています。」

髙田織物のターニングポイント

髙田織物 5代目 代表取締役社長 髙田尚志氏髙田織物 5代目 代表取締役社長 髙田尚志氏

髙田織物は1892年創業、現在畳縁の国内シェア40%を誇ります。黒と茶色の綿素材の無地の畳縁が主流だった時代に、素材や柄に変革を興し、現在ラインナップは1000種類を超える、畳縁業界のパイオニアです。国内のみならず、海外へも畳縁文化を発信しています。

髙田尚志氏は、稼業継承から入社・社長着任までを振り返ります。

幼少期より家業を継ぐことは漠然と考えてました。下宿先に突然父親が現れて『継ぐ意思はあるのか?』と聞かれ、“外部で修行して戻る”と考えていたものの、話合いの末に帰郷。

入社1年目、高潮台風の影響で工場の半分が浸水、機械が動かない状況が続き、従業員は一生懸命働いてくれる中、新人の僕には『社長の息子はなんぼのもんか』という雰囲気がありました。なんとか認められたいと毎日遅くまで復旧作業を行っていると、従業員が『もっと頼ってくれたら良いんですよ!』と言ってくれ、従業員・チームワークの大切さを痛感すると同時に、皆を守れる力を持つと覚悟した瞬間でした。

自身の足りない部分を補う為、青年会議所入所。『やりたいのであればやれ、その代わり人の倍働け、でないと人はついてこない』と父親から叱咤を受けつつ、今年6月、父親が70歳・自身が39歳になった際に事業承継〜社長に着任致しました。」

人を活かし、時を超える挑戦~コロナの今~

ターニングポイント(苦悩から覚悟へ)を乗り越える中、実際に実践されてきた“改革・挑戦”とはどのようなものだったのでしょうか。

菅公学生服の挑戦

尾﨑茂氏は、ものづくりには人やチームが大切だと語ります。

人づくり企業に転換と言いつつ、ものづくりが基本

繊維のものづくりは全て手作業で、習熟・チームワークも必要になり、『チームで生産性を上げる事』が最大の人づくりに繋がります。適材適所の工程に人を配置・高めの目標を与え、諦めずに粘り強く達成に向かえるかが人づくりにおいて重要。そのためにも『勝手に人が育つ土壌』はしっかり用意しないといけない

『有名な教授・経営者が言っていた』ではなく『自分がやりたいかどうか』という情熱が何より大切で、理論を超えていく部分だと思っています。そのためにもあまりアイデアを批難するようなことはしません。社員が声を上げやすい土壌・環境は意識的につくるようにしています。就任して15年、売上をのばせなどは一言も言ったことはありません(笑)。」

両備HDの挑戦とコロナ

松田敏之氏は、コロナ禍においては今までにない施策が必要だといいます。

「ニューノーマルだイノベーションだと叫ばれていますが、コロナは最悪です(笑)。現状把握をし、今までに無い新しい手を打たないといけない

弊社では小さなコストダウンは大きなモラルダウンと考え、コスト削減はご法度でしたが、コロナ禍で踏切りました。モラルを下げてでも危機的状況を社員と共有することが大切と思い、給与には一切手をつけていませんが、それ以外のコスト削減を断行している最中です。

ただし、打開策は経営者だからわかるものではなく、日々考え、日々挑戦の連続です。私自身も能力があるわけではありませんが、周りの人が自分以上に優秀であったら良い会社になると考えており、社員達の能力をいかに最大化させ、全く違う発想アイデアを取り出せないかと常に考えています。」

髙田織物の挑戦とコロナ

髙田尚志氏は、コロナによる消費の変化にいち早く対応しました。

畳縁ハンドメイドグッズを展開している中、コロナによる巣篭もり消費を見越し、ECサイトを充実。全国ネットのテレビ番組に出演し、一時期サーバーがパンクする程に注目を集めました

一時の流行りにしないよう、アフターフォローやオンラインでのワークショップを通じて畳縁を発信&体験の機会を増やしていきます。」

ここで髙田氏から、尾﨑氏・松田氏への質問がありました。
新しい挑戦をする際、歴史が弊害になる時にどのように向き合われているのでしょうか?

菅公学生服 尾﨑氏は、社員の幸せを考える、と答えます。
繊維業界というのは非常に保守的で同業であり、髙田さんのお悩みもよくわかります。その中で、変革を起こす際には社員の幸せをまずは考えるようにしています。売上に固執している間は出来ないのではないかなと思います。」

両備HD 松田氏は、社長だからこその視点について話しました。
「業界の常識が、世間の常識になっているというのはよくあること。実際は変えるべきなのに『業界の慣習』という言葉で片付けられてしまうことが多々ありますが、社長は業界の常識に囚われることなく、常に素人の感覚が必要ではないかと思います。」

本記事では「⻑寿企業後継者の苦悩と⾰新」をテーマに、岡山県の長寿企業3社の「ターニングポイント」「改革・挑戦」に焦点を当てて見てきました。
次回は「未来展望」という切り口で、長寿企業の秘密を紐解いていきます。

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