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〈前編〉第4回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 千葉 2019 ~伝統・革新~

2019年2月18日(月)、TKPガーデンシティ千葉にて「第4回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 千葉 2019」が開催されました。

フォーラム開催にあたり、千葉県内に797社ある創業100年を越える長寿企業に対し、一社一社へお電話の上、本プロジェクトの概要説明、並びに訪問させて頂きました。
今回の千葉開催では、数十社へ訪問させて頂く中に、“事業承継”に関して明確な回答を持たれていない社長さまが40%以上と非常に多くいらっしゃいました。

後援企業並びにオフィシャルパートナー(東京海上日動)との協議の上、”事業承継”を軸に、「暖簾・人材・未来」における知恵を引き出していくことこそが、千葉の未来を担う皆さまにとってより良い価値(気づきや学び)を得られる機会になると考え、下記の方々にパネルディスカッション登壇をご依頼しました。

丸金印刷   川合榮子 氏
米屋     諸岡良和 氏
山本海苔店  山本貴大 氏

「受け継いだ人、今受け継がせている人、これから受け継ぐ人」という三者三様の立場にてお話を頂戴しました。3社によるフォーラムの様子を、3回に分けてご紹介します。

〈前編〉第4回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 千葉 2019 ~伝統・革新~ ※本記事
〈中編〉第4回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 千葉 2019 ~地域との共生、人材~
〈後編〉第4回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 千葉 2019 ~変えるべきこと~

前編では、「それぞれの事業継承」「伝統と革新」に焦点を当て、長寿の秘密を紐解いていきます。

千葉と東京の長寿企業3社の「それぞれの事業継承」

丸金印刷の川合榮子氏、米屋の諸岡良和氏は、どのように事業承継を行なってきたのでしょうか。また、山本海苔店の山本貴大氏が意識する事業承継とはどのようなものでしょうか。

千葉フォーラム

丸金印刷の事業継承

丸金印刷 川合 榮子 氏
丸金印刷 川合 榮子 氏

丸金印刷は、1914年に川合金五郎が小間紙を扱う商いとして東京都台東区にて創業しました。終戦後は2代目が印刷業へ移行しています。

川合氏は社長に就任したときのことを、次のように語ります。

「3代目(夫)が亡くなり、すぐに社長就任した訳ではなく、前経営者(4代目:義母妹の夫)との摺合せが必要でした。

3代目の後を引き継ぎ経営されていた際、4代目の病をキッカケに義母から相談され、社長になる決意を固めました。しかし、 4代目の病が治り『もう少し社長を続けたい!』と主張し二人で経営する時期もありましたが、当時50歳の私は『次回株主総会までにどちらが社長を継ぐかを決断しましょう!このタイミングで社長になれないのであれば、金輪際社長を務めることは難しい!』と伝え、最終的には株主総会で決定の上、社長に就任いたしました。」

米屋の事業継承

米屋 諸岡 良和 氏
米屋 諸岡 良和 氏

1899年、創業者・諸岡長蔵は母親なつと“日本初ともいわれている栗羊羹”を開発しました。米屋は商品とともにお客様の信頼を得て、今日まで成田山参道の名物として多くの人々に愛されてきました。

2015年に事業継承をした諸岡氏は、当時のことをこう振り返ります。

「2015年に事業承継を行いました。

わずか半年で先々代の父が急逝。経営者として歩み始めた矢先、戸惑いや悲しみを含め非常に大きな衝撃がありましたが、会社や社員そして関係会社を守るためにも、悲しんでばかりではなく、やらなければならないことが多数あったお陰で、落ち込むこともなく、事業を推進できました。

当時、既に事業承継の道筋は出来ていたことが非常に大きく、『この苦難は父親から最後に託された、成長へのチャンス』と捉え、前向きに取り組むことができました。」

山本海苔店の事業継承

山本海苔店 山本 貴大 氏
山本海苔店 山本 貴大 氏

1849年、初代・山本德治郎氏が日本橋室町にて山本海苔店を創業しました。常に時代に即した商いをし、海苔の新たな可能性を追求し続けています。

山本氏は幼いころから事業継承をする使命を負っていたといいます。

「本家の長男(場合によっては長女の婿)が継ぐという掟があり、生まれる前から山本海苔店の当主になることが使命。

子どもの頃から『将来サッカー選手になる』というと、母や祖母から軌道修正をさせられました(笑)基本的に誰からも『継ぎなさい』と言われたことはなかったですが、自然に小学生から『将来は山本海苔店を継ぐ』ということを意識し、人生の岐路や大きな決断をする際には、山本海苔店の当主という軸で実行。金融知識を学ぶ為にも大学卒業後には銀行に入行し、3年の月日を経て入社しました。」

千葉と東京の長寿企業3社の「伝統と革新」

代々受け継がれてきた伝統、経営理念、文化を繋ぎ、時代へ伝えていくために必要なものとは何でしょうか。

千葉フォーラム

丸金印刷の伝統と革新

川合氏は、経営経験がなかったことで変革できたものがあるといいます。

「専業主婦で経営経験がなく伝統への執着がなかったことで、様々な習慣や環境に疑問を持ち、不要なものはなくし改善することができました。

4代目が東京・日本橋に営業所を構えていましたが、主要取引先は千葉市内にあり、営業面や維持費含め、撤退を決断し、同時に本社新設を実行し、営業所やグループ会社を全て同じオフィスへ合流させました。

また、製造機械も古く、最初は社員たちの猛反発(この機械でも十分にやっていけます等)もあり数年間あたためた後、社員たちが『今のままではお客様の期待に応えられない』と感じたタイミングを見極め、時代に即した機械を導入しました。

社内改革には忍耐と決断が必須です。」

米屋の伝統と革新

諸岡氏は創業者の自伝を何度も読み返していることや、海外発信の経験を語ります。

「『己に薄く、他に厚く』という創業者から連綿と受け継いできた精神があり、何か判断をする際に『創業者であれば、また、諸岡家であればどう行動するか?』ということを常に意識しています。創業者の考えや判断基準を染み込ませるためにも、創業者の自伝を年3回読んでいます。

虎屋さん含め和菓子の皆さんと共に、YOKANコレクションというイベントを開催(クールジャパン活用)しました。羊羹を通じて和菓子文化の海外発信を進めると、フランスでは大盛況でした。海外での確かな手応えを感じたものの、次のシンガポール開催は、非常に冷めた反応。海外では黒い食べ物は受け入れられにくく、それぞれの風土に合わせたローカライズが必要だと痛感しました。」

山本海苔店の伝統と革新

山本氏は長期的に良い海苔を仕入れる関係づくりや、海苔以外の事業について語りました。

「入社後は銀行での経験もあり、お金の動きや仕入れ値・売値等を担当しています。一度、業者交渉し、とても安く海苔を仕入れた際、褒められると思ったら『山本海苔店がこんな安値で仕入れたら海苔業界は終わりだ!』と激怒されたことはすごく衝撃的でした。

山本海苔店では、貴重な一番海苔だけを漁師さんから適正価格で購入することにより、継続的に良質な海苔を入れて貰えるWin-Winな関係構築を積み重ねていると、改めて心に刻みました。

海外展開として香港出店も、開始2日で海苔が全く売れないことを痛感しました(笑)。米屋さんの羊羹と同じく、アジアでは黒い食べ物を受け入れられないようです。しかし、現在は海苔ではなく物流やコラボ企画で黒字化していて、何がビジネスとして確立するかはわからないですね。情熱持って挑戦し続けるのみです。

今回は、「それぞれの事業継承」「伝統と革新」という切り口で長寿企業を見てきました。次回は「地域と共に生きる」「人材を育てる」に焦点を当てていきます。開催情報

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