〈中編〉第9回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岡山 2022 ~人財と地域~
2022年10月25日(火)、「岡山燈火会発足式ならびに第9回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岡山 2022」(以後、岡山燈火会2022)が、能楽堂ホールtenjin9にて開催。100周年を迎えた地元企業の表彰式と「長寿企業経営者の葛藤と知恵」をメインテーマにパネルディスカッションが行われました。
第1部の表彰式では本年度に創業100周年を迎えられた地元企業全17社を代表して、2社をお招きし感謝状の授与を行いました。また第2部のパネルディスカッションでは「⻑寿企業経営者の葛藤と知恵」と題して、「ターニングポイント」、「人財と地域」と「未来へ」の3つの切り口から3社3名にお話を伺いました。
第1部 100周年を迎えた地元企業の表彰式 感謝状授与企業
カーツ株式会社
西尾総合印刷株式会社
第2部 パネルディスカッション 登壇企業
オルバヘルスケアホールディングス株式会社
服部興業株式会社
菊池酒造株式会社
「岡山燈火会2022」の様子を、3回に分けてお伝えしていきます。
〈前編〉岡山燈火会発足式 ~100周年企業の表彰式~
〈中編〉第9回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岡山 2022 ~人財と地域~ ※本記事
〈後編〉 第9回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岡山 2022 ~未来へ~
本記事では、第2部 パネルディスカッションのメインテーマである「長寿企業経営者の葛藤と知恵」を「ターニングポイント〜葛藤と覚悟〜」と「人財と地域〜人と地域を活かす〜」という切り口で見ていきます。
【ターニングポイント〜葛藤と覚悟〜】
「葛藤の中でいかに覚悟を定め、どのようにイノベーションを興しながら危機的な状況を乗り越えきたのか」をオルバヘルスケアホールディングス株式会社、服部興業株式会社、菊池酒造株式会社に伺いました。
〈オルバヘルスケアホールディングスと葛藤・覚悟〉
1921年寺岡清照(てらおか きよてる)が川西器械店を創業。医療器械の販売を通じ地域医療を支えてきた。しかし、第二次世界大戦の岡山大空襲で店舗を焼失し、再出発を余儀なくされる。「いかなるときもフェアであり、謙虚に学ぶ姿勢を持ち続ける」価値観を胸に高度成長期の中で組織の礎を築き、その後のバブル崩壊に伴う混乱を乗り越え、現在では全国50以上の拠点を持つヘルスケア企業グループへ成長。
前島 洋平 様は、社長就任後に特に注力して取り組んだ2つのことについて説明しました。
「社長就任後、大きく二つのことについて取り組みました。
一つは、社内に十分に浸透していなかった企業理念を整備し、再構築し、浸透させることでした。2019年、旧社員顕彰を見直し、謙虚に学び続ける姿勢やダイバーシティ等を加えた『新・社員憲章』を制定しました。浸透施策はジョンソン・エンド・ジョンソン日色前社長や玉井社長に教えていただき、実践しました。
もう一つは、『医工連携モデル』の構築です。従来、医療現場で出たニーズを製造企業に伝えても、マーケティングや販売等のビジネス化の仕組みが整わず「これは売れません」と終了になることが大半でした。そこで、最初から製造企業に我々(販売業)が入ることで、出口戦略やマーケティング戦略を把握した上で、ものづくりを進めることができるようになりました。そして今は市場調査や販路開拓支援等も担うことで、医療機器開発が円滑に進んでいます。しかし、成功談の裏には出資事業の失敗もありましたが、その経験が他の事業に活きていると強く感じています。」
〈服部興業と葛藤・覚悟〉
1818年、服部平兵衛信高(はっとり へいべい のぶたか)が木材問屋”若葉屋”を創業。建材・石油・木材・不動産等、時代の変遷と共に事業を多角化。瀬戸大橋架橋・新岡山空港開港など地域プロジェクトにも参画し、グループ最大9社まで業容を拡大。 2018年、創業200周年で「服部フィロソフィ」を作成。社員幸福と地域社会の発展へ挑戦を続け、持続可能な社会の実現に邁進する。
服部 俊也 様は、周囲の批判や期待から学んだことについて語りました。
「入社3年で社長就任し、最初に取り組んだことは不採算事業の撤退でした。セルフうどんの店4店舗を売却、ガソリンスタンド7店舗を閉鎖し、グループの整理として8社から5社に減らしました。さらには賞与削減や超過勤務禁止等の経費節減も実行しましたが、社員から批判ではなく期待の声を頂き、徐々に会社は回復をしていきました。
しかし、盛和塾 稲盛和夫塾長から、『あなたにお父さんを超えることはできない』と言われ、私は青ざめました。その瞬間、自分が傲慢であり、感謝の気持ちや謙虚さを失っていたことに気づき、改めることを決意しました。
2007年に社長就任をしてから8年間、毎朝1時間、経営のイロハや家法等を学ぶ中で、『繁栄も衰退も当主が判断して死に物狂いでやるしかない』という最後の帝王学を実践で学ぶことができたと思っています。」
〈菊池酒造と葛藤・覚悟〉
1878年菊池太平(きくち たへい)が創業。数多い酒の中にあって一段と輝く素晴らしい酒でありたいと願いをこめた「燦然(さんぜん)」。5代目菊池東(とう)は一度飲んだら忘れられない理想の酒を作るべく、自らが杜氏(とうじ)となり、モーツァルトが流れる蔵で酒造りに挑戦。その卓越した技術は数々の品評会の受賞歴が物語っている。そして首都圏での販路拡充や輸出事業に挑戦し、国内外問わず日本酒を広げ続けている。
菊池 大輔 様は、成功事例と挑戦について語りました。
「入社して真っ先に感じたことは、社長のワンマン経営で全てを切り盛りしていたため、『もっと組織や人を育てないといけない』ということでした。また設備も自分の生誕前の機械を使用しており、変革の必要性を痛感したことを覚えています。
そして売上拡大が急務でしたので、首都圏への出荷に挑戦をしました。全国のお酒と比較される中で、様々なダメ出しを受け、苦しく悔しい思いばかりでしたが、一つ一つ改善したことで品質が高まり、売上も拡大していきました。
さらにご縁の中で海外展開に挑戦することになり、13カ国へ輸出したことで全体売上の25%を占めるまでに成長をしました。しかし昨今のコロナ禍で海外輸出が滞り、また国内飲食店への出荷も止まってしまい、非常に苦しい時期でした。ただ、ネット販売に注力したことで売上を回復させることができ、今では重要な収益源の一つとなりました。
直近では新商品開発に挑戦しています。日本酒離れを食い止めたいとの思いから、若者やお酒が苦手な方々に飲んでもらい、創業以来初のノンアルコール商品である”甘酒”の開発に注力しています。」
【人財と地域〜人と地域を活かす〜】
「いかに人を育て、この地域にしかない魅力を活かしていくのか」について伺いました。
〈オルバヘルスケアホールディングスと人財・地域〉
前島 洋平 様は、他社が参考にしたプロジェクトについて語りました。
「ひとづくりとして『オルバアカデミー(人材教育システム)』を発足し、医療機器やビジネス、体の解剖など様々な内容が学べるだけでなく、マネジメント層の教育も実施し、業界に先駆けた人材育成に注力しています。
また100周年記念事業の一つである『未来プロジェクト』は、20代の若手社員に20年後にどういう姿でありたいかを考え、実行させるものです。そして企業理念を共有し浸透させることを目的として、社内報に社員憲章のエッセンスを取り入れて毎月更新する4コマ漫画を制作しました。これらは社内だけでなく社外でもとても評判で、大手医療機器メーカーさんにも真似していただき、とても嬉しい限りです。是非、岡山の皆様も真似して下さいませ(笑)
地域づくりとしては地元スポーツチームや起業支援(ピッチコンテスト)、大原美術館のスポンサー等もさせていただき、社員がまちづくりに誇りを持ってもらえたらなと考えております。」
〈服部興業と人財・地域〉
服部 俊也 様は、社員やそのご家族の満足度が向上した社内制度について語りました。
「妻の助言から『小学校入学前の子どもを会社へ招待する』社内制度が発足しました。紙で作ったランドセルにお菓子を沢山いれてプレゼントし、お父さんやお母さんの働く姿を動画でまとめ、上映します。社員やご家族の満足度は勿論、子ども達から2、3日はとても尊敬されるそうです(笑)同時に、ご家族の皆様に日頃の感謝を伝えられることが最高に嬉しい瞬間だと聞いています。
2008年よりプロサッカークラブ『ファジアーノ岡山』のスポンサーをしています。当時はとても経営が苦しく、社内から『どこにお金があるんですか?』など様々な声があがりました。社長業の大変さを痛感した瞬間でしたが、同時に『負けずにもっと稼ごう』と覚悟を決めた瞬間でもありました。」
【質問タイム】
3社の方々には、これまでに感じたことや思ったことを率直にお話しいただきました。
Q:〈菊池酒造 菊池 大輔 様〉前島さんに質問です。入社からたった1年で社長就任された際、最も意識された点や上手くいった秘訣を教えてください。
A:〈オルバヘルスケアホールディングス 前島 洋平 様〉『いきなり全てを変えない』ということです。現場の声を聞き、現状を正確に把握しながら、変えなくていいものは変えませんでした。その上で、3年後から変えられそうな部分から一つひとつ変革してきました。その他、社内外だけではなく社会の声もしっかりと聞くことを心がけました。
Q:〈菊池酒造 菊池 大輔 様〉服部さんが婿養子として事業承継された際、社員の方々への気遣いや大変だった点があれば教えてください。
A:〈服部興業 服部 俊也 様〉ガソリンスタンドのオイル交換や建設現場での仕事等の社員の皆ができることが僕は何一つできなかったので、とにかく社員の声を聞くことに徹しました。
Q:〈服部興業 服部 俊也 様〉前島さんにとってご家族はどのような存在でしょうか。ご近所で住んでいてご家族ともご縁があるからこそ、ぜひ聞かせていただきたいです(笑)
A:〈オルバヘルスケアホールディングス 前島 洋平 様〉ちょっと予想外の質問ですね(笑)妻には本当に感謝しています。アメリカ留学をした際、私は英語が話せなかったのですが、妻が英語を話せたので大変助かり、有難かったです。子どもには会社を継がせることは考えておらず、やりたいことを貫いてやって欲しいと考えています。
Q:〈オルバヘルスケアホールディングス 前島 洋平 様〉服部さん、『外交官になりたい』という夢があったと伺いましたが、事業承継された後、元々の志と今の志は整合しているのでしょうか。あるいは今の志が中心になっていて、元々の志に戻るようなことは考えられていないのでしょうか。
A:〈服部興業 服部 俊也 様〉昔、バングラデシュに行った時、よく停電が起こり、ろうそくを焚いて食事をしたりお風呂に入ったりするのが普通でした。その体験が貧しい国や人を助けられる仕事がしたいと考える原点になりました。外交官の夢は早々に諦めましたが、その思いは今も変わっていません。フィールドや仕事内容は変わりましたが、『人を助けられる仕事がしたい』という志は幼少期から変わりなく、逆にもっともっとその志を高く掲げていかなければならないと、この質問を受けて痛感しました。
本記事では、第2部 パネルディスカッションのメインテーマである「長寿企業経営者の葛藤と知恵」を「ターニングポイント〜葛藤と覚悟〜」と「人財と地域〜人と地域を活かす〜」という切り口で見てきました。
次回は「⻑寿企業経営者の葛藤と知恵」を「未来へ〜変えるべきもの、変えないもの〜」という切り口で、長寿企業の秘密を紐解いていきます。