〈中編〉第3回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岐阜 2018 ~人財~
2018年8月27日(月)岐阜県岐阜市の「岐阜グランドホテル」を会場に「第3回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岐阜 2018」が開催されました。その第1部として行われた、岐阜の長寿企業3によるパネルディスカッションの様子を3回に分けてお伝えしています。
創業100年を超える、地元岐阜市の秋田屋本店9代目中村正氏、同じく岐阜市の岡本・ナベヤグループ16代目(予定)岡本知彦氏、高山市から洲さき10代目洲岬孝雄氏が登壇し、コメンテーターに千葉県より秋葉牧場6代目秋葉良子氏を迎えました。
登壇者の企業プロフィール
・株式会社 秋田屋本店
・岡本・ナベヤグループ
・株式会社 洲さき
・秋葉牧場
「長寿企業不変の精神、革新を続ける3社の経営哲学に迫る」をテーマに、「のれんは守るものではなく、磨き続けるもの」「地方最大の課題・人財」「これからの100年」の3つの切り口から、それぞれの長寿企業のものがたりを紐解いていきます。
〈前編〉第3回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岐阜 2018 ~磨き続けるのれん~
〈中編〉第3回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岐阜 2018 ~人財~ ※本記事
〈後編〉第3回 地方創生経営者フォーラム 伝燈と志命 in 岐阜 2018 ~これからの100年~
「地方最大の課題・人財」
岐阜地域最大の課題「人財」と老舗
岐阜という地域社会には人財という課題があります。
老舗は、どのように人財という課題を解決しているのでしょうか。
社員の挑戦の促進と、岐阜の魅力の再認識と発信が必要
ミツバチを扱う秋田屋本店では、働き蜂が様々な仕事をこなすように、社員にもそれまでの学歴や経験にとらわれずに、色々な仕事にチャレンジすることを意図して行っています。
「ジョブローテーションといいますか、社員はいろんな仕事をやっていくことを常に行っています。ものづくり、製造業という立場では多能工化とでも言いますか、この仕事だけではなくていろんな仕事をこなせますよというようなことです。マルチに仕事ができる先には、オールマイティにいろんな仕事ができる。そういった形で一人一人の力をつけていくということを促進しております。」
隣県である愛知県、特に名古屋への人材流出対策について、中村氏は岐阜の魅力を再認識し、発信していくことが必要と話します。
「岐阜から愛知県へかなりの大学生や高校生が就職するといったことで、本当に人手不足が顕著な状況です。だけどもやっぱり歴史の中で岐阜というのは鎌倉時代とか室町時代は、美濃、尾張、伊勢を支配していたんです。歴史は繰り返しますので、また岐阜がパワーをつけて、東海地方が日本の中心となるという夢を見ています。
人の面でも、岡本社長を中心として、我々もみんなで取り組んでおりますが、『産学金官』。産業、大学・高校の学、それから金融の方も入っていただいて、あとお役所・行政。そういったところでみんなが協力しあって、岐阜の魅力を発信して、早いうちから岐阜で学ぶ学生、そして愛知県に行った人も戻ってきてもらうこと。それを徹底的に、みんなで協力して岐阜が栄えるように、活性化するようにするべきだと思います。」
人と利益を育てる「番頭制」が長寿の鍵
岡本氏は、社会貢献をという考えのもと、番頭制という独自の仕組みが、長寿企業として続いてきた秘訣だと話します。
「まず1つ言えることは、お客様を通して岡本・ナベヤグループの製品もしくは技術を社会に貢献させ、その対価としてお金を頂くという流れをきっちり抑えることです。顧客目線であるとか社会貢献、先ほどから諸先輩方も言われているまさにその通りだと思います。
番頭制というのはなんなのかというと、かっこいい言葉で言うと資本と経営の分離の在り方だと思っております。
人財育成のために、社長を鍛える。それぞれの事業会社の役員や部長レベルを育てるために極めてうまく番頭制というのは機能しているんじゃないかなという風に思います。私にとっては、ある意味では一番大切な、そして一番頼りにしている共同経営者であり、パートナーです。それが番頭という位置付けになります。
番頭に求められるのは、事業部門のプロであること。2つ目は、イエスマンではなく、本当に会社のことを思って『社長これは違うと思います』とか、『こういう風にやったほうがいいんじゃないですか?』ということが言えるイーブンな立場であること。この2つが大切です。」
この日、岡本ナベヤグループの番頭である加藤常務も会場に駆け付けました。加藤常務の視点から見る、番頭制の役割とは何でしょうか。
「最初に申し上げていますが抜群の右腕でもございませんので大したことは申し上げられません。あくまで私は『副』の立場でして、『主』としてオーナー家があります。
その中で、経営理念を社員に伝える伝道師あるいは宣教師。そういうことを自分の役割の第一と考えております。
事業面の部分では、各々任された会社の部門利益の極大化を図ること。そしてもうひとつはやはり危機管理で、ポイントは人心掌握を行うこと。この3つを事業運営の中では役割として思っています。」
マニュアルを作らず、自分の力で接客する
洲さきでは、人材教育のためのマニュアルを作っていません。なぜ、マニュアルを作らないのか、洲岬氏にお聞きました。
「いわゆるお客様も百人百様でございますので、マニュアルがあるとそれをクリアすればそれでいいという考えも生まれてくるような感じがいたします。
ですからやっぱり現場で最終的にはどのように接待すればいいかということを自分自身で覚えていく。それはもちろん、女将をはじめ、細部は教えますけれども、やっぱり最後は自分の力で接待をするということで。それともう1つの理由はそんな大きいお店じゃございませんので、わざわざマニュアル等々を作るような必要もないというようなところもございます(笑)」
社員一人一人が「必要とされている」と思える言葉がけ
コメンテーターの秋葉氏は、自身の経験から社員へ投げかける言葉を大切にしていると言います。
「人財という意味では非常に苦労しています。牧場経営というのは動物に接することだけが仕事ではなく、総務もあり、売店もありいろんなお仕事が牧場内に詰まっております。『牛にさわれない』とか『他の動物の仕事がしたい』とかいったところで転職する方もいらっしゃいます。
私は、ゆめ牧場という事業を始める時に、本当に嬉しくてウキウキしながら日々仕事いたしました。3時間くらいしか寝ませんでしたけども、よく周りからは『大変だったでしょ』『苦労したでしょ』とか言われますけれども、今振り返っても、全くそういう感じはなく、楽しい楽しい日々でございました。その経験があるので、『あなたが会社にとっては必要なのよ』ということを本当に一人一人に伝え続けていきたいと思っております。」
今回は「人財」という切り口でお話をいただきました。それぞれの企業が持つ社員に対する思いや、人財に対する仕組み作りが見えてきました。次回は「これからの100年」に焦点を当てます。