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株式会社 ちんや 現存する浅草最古のすき焼き店

株式会社 ちんや
オープニング・創業の精神 ~家訓や理念誕生の経緯~

今回のゲストは、すき焼 ちんや 6代目代表 住吉史彦
1880年創業、かつて東京一の盛り場として繁栄した「浅草」の地で狆(ちん)等の愛玩動物を納め、獣医も兼ねた「狆屋(ちんや)」を祖業とし明治の後期に今や日本の代表食である“すき焼き”の世界へ身を転じた…。
現存する浅草・最古のすき焼き店
その137年という長い歴史に刻まれたのは栄光よりも、幾多の困難であった……
それらを乗り越えた背景にはそこにはすき焼きを売るのではなく、思い出を売り続けるという精神があった。
すき焼きとは人生を映す鍋であり、その味が人々の絆となる。
それこそがちんやが築いてきた本当の財産なのだ。
今回は、すき焼ちんやの6代目 住吉史彦の言葉から、創業がから続く伝統を守っていく中で、先代達が下した決断、その裏に隠された物語を紐解き、長寿企業が持つ知恵の真髄に迫る!

石田:本日のゲストは、すき焼 ちんや 代表取締役 住吉史彦(すみよし ふみひこ)さんです。よろしくお願い致します。

住吉:こちらこそよろしくお願い致します。

朝岡:えぇ、まぁ、ちんや(アクセントが”ち”)ですね?

住吉:ですね。

朝岡:ちんやじゃなくて?

住吉:じゃないです。はい。

朝岡:老舗ですよね。

石田:ねー!

朝岡:老舗が多いすき焼き屋さんの中でも、老舗ですよね。

住吉:あ、恐縮です。ありがとうございます。

朝岡:創業が明治の?

住吉:13年です。はい。

石田:明治13年…ということは、今何代目でいらっしゃるんですか?

住吉:私で6代目ですね。

石田:はぁー、そうですか。ねー!

朝岡:6代目ですよ。ねー!

石田:一族経営でいらっしゃるんですよね?

住吉:そうですね。はい。

朝岡:もうすき焼き一筋って言って良いわけですよね?

住吉:えぇ、最初の頃は、多少色々やってたらしいんですけど、明治の後半からは、当時はすき焼きと言わずに??牛鍋と言ってましたけど、そのあとはずっとやっております。

朝岡:そうですかじゃあその辺のお話もまた伺いましょう。

石田:はい。

住吉:はい。よろしくお願いします。

石田:使っていらっしゃるお肉にもこだわっていらっしゃるとお聞きしましたけども。

住吉:はい。実は今年1月に一つ基準を提示させていただいたんですけれども。「適サシ肉宣言」と言わせていただいたんですけれども。

朝岡:てき刺し肉宣言?

住吉:適度なサシの肉。で「適サシ肉宣言」

朝岡:あー適サシ!

住吉:言葉は実は僕が作ったんですけれども。適度なサシ・・・サシですから肉の中の油、脂肪の話なんですけれども、その脂肪の量と質と形とはどんなのが美味しいと思うよって話を、こんな按配がいいよって話をちょっと今年の一月にお示しさせていただいたんです。

朝岡:これはいわゆるよく言う霜降りの肉、というのとは適サシって違うんですか?

住吉:適度な霜降り

朝岡:適度な霜降りね(笑)

住吉:逆に言うと過剰な霜降りはちょっとやめませんかっていうそういう話で。量で言うと30%くらい。A5とかB5とか。

朝岡:ええ。焼肉屋さんなんかでもよくランクづけありますもんね。

住吉:ええ。(うちでは)実は5はやめちゃったんです。

朝岡:ほお。

住吉:ええ。4。

朝岡:4?

住吉:(A4が)がいい塩梅だよね、と。それだけを売ってますと。5は売ってないんです、ってことをお客様に言ってるところなんです実は。

朝岡:それはやっぱりいわゆる霜降りはとても人気があってね、やっぱり日本の牛肉は霜降りだよねって言って霜いわゆるサシがいっぱい入ってれば入ってるほどなんかとろけるようでやわらか〜いみたいなそういうイメージがありますけど、それは違うんだと。美味しさと?

住吉:もちろんやわらかくはなるです、油ですから。ただ最近はやりすぎちゃったんです。もう半分以上油とか、場合によっちゃあ7割油とか。そういうお肉を生産することができるようになっちゃってて、みんながそれを褒めるもんですから、やりすぎになっちゃうんです。一部のお客様はもう嫌だとおっしゃってる方もだいぶ増えてきて、「霜降り離れ」(が起きている)。
じゃあ霜降り嫌だから赤身です、っていう赤身が美味しいよね、という話も出ているんですけれども、私の立場は、ちょうどいい霜降りがいいよね、っていう。こっち(霜降り)の極端じゃなくて、こっち(赤身)の極端じゃなくて、真ん中ぐらいが美味しいよねっていうことをたまたま今年発表させていただいた。

朝岡:それが「適サシ」ね!

住吉:いい言葉がなかったんで(笑)自分で作ったんです。

朝岡:お考えになって。

石田:どうですか、「適サシ肉」という言葉を作られて、周りの反響は?

住吉:それがですね、最初はそんなに目立ちたくてやったわけじゃないんですけども、手前どものお客様にこういうものをお売りしてるんでよかったら食べにいらしてください、と最初はブログで言っていただけなんですけれども、2月8日だったんですけれども、Yahoo!ニュースのヘッドラインに出ましてね、それからものすごい拡散、コメントなんかも何1000件いただいたりして。結果的には目立っちゃったんですけれども。テレビも9回くらい出ましたかね。今日10回目ですかね。

朝岡:じゃあ相当反響あって。

住吉:びっくりしちゃいました(笑)本人が一番びっくりしました。

朝岡:潜在的にね、適サシっていいよねってあったんですかね。

住吉:世間に合ったんでしょうね。それでポッと名前つけて、発表したらすごい拡散しちゃったっていうことで、本人一番びっくりしてますから。

朝岡:お肉に関しては「適サシ」また新たなものを打ち出していらっしゃいますけど、肝心のすき焼き自身の作り方というのもちんやさんはかなり独自のものというか、ここ大事だよっていうものがあると伺いましたが、どういうところですか?

住吉:まず割り下の味そのものは実は関東で一番甘いと思うんですけれども、これはもうお客様がそういうもんだと思っていらっしゃるので、勝手に変えられないんですね。その他弄っても良い所があれば、色々いじらせていただく。その理にかなってなければいけませんけど、食べ物の理屈にかなってればちょっといじれるところはいじらせていただこうと思いまして。
例えばすき焼きの溶き卵にカレー粉入れたりとかヨーグルト入れたりとかすると、これ結構美味しかったりしてですね。

朝岡:へー美味しいですか(笑)?

住吉:美味しい。

石田:意外ですね!

住吉:すき焼きはいくら美味しくても、ずっと食べてるとちょっと飽きますでしょ。

朝岡:特に甘かったりすると。

住吉:あまっからーくて。甘辛が旨が強烈なので飽きてくるので、ちょっと苦味が入ってきたりして複雑にすると、さらに食べられちゃう

朝岡:世界が広がってくんですね。

住吉:これはとっても食べ物の理屈にかなった話なのでカレーなんかもね、とっても美味しいんです。肉にも合いますし、しらたきとか豆腐にもキンピラみたいな感覚です。その卵があまったら最後にたまごかけご飯にしちゃったりすると。

朝岡:はははははは(笑)

住吉:カレーライス、カレーライスに卵トッピングしますでしょ?

朝岡:はい(笑)

住吉:これとほとんど同じで。これね、うまいんですよ(笑)

朝岡:ご自分が試していらっしゃるから。

住吉:もちろんですね。

朝岡:説得力がありますよね。理屈だけじゃなくてね。

ナレーション

ここからは、各テーマを元に、すき焼きちんやの6代目 住吉史彦の言葉から、長寿の知恵に迫る…。
最初のテーマは、「創業の精神」
創業から現在に至るまでの経緯、先代達から受け継がれてきた想いに迫る!

朝岡:ちんやさんっていうのは、僕は牛鍋がね、明治の味で珍しかったから珍しいの「珍」の字を書いて「ちんや」なのかなと勝手には想像していたんですけれど、そうじゃなかった?!

住吉:違う漢字なんですけれども。犬の「狆」

朝岡:あぁワンっちゃんの「狆」!

住吉:はい。ワンちゃんのですね。

朝岡:ほー。じゃあ創業した時はどういうお店だったんですか?

住吉:牛鍋始める前は犬の「狆」をやってまして、今で言えば「ブリーダー」ですね。

朝岡:「狆」を売ってるペットショップみたいな?

住吉:ええ。産ませるところからやってました。

朝岡:ブリーダーだ!

住吉:可愛い血統を持ってると、皆さんがそれを欲しいと言って買いにいらっしゃる。

朝岡:それが元々のご商売だったんですね!

住吉:ええ。

朝岡:それで「ちんや」さん。それがなぜまたどうしてすき焼き屋に?

住吉:明治時代になりまして、浅草ですから当時浅草の全盛期で人がたくさん出ていて。旅行も自由になりましたしね。たくさんお参りの方が見えるってんで、そこで料理屋をやれば多分うまくいくんじゃないかと。
それ以前に(犬が)あんまり売れなくなったですね。犬もいろいろ種類ございますよね?で、ちんはちょっと軟弱イメージ。座敷犬と言って座敷で・・・

朝岡:室内犬ですよね!

住吉:ええ。旗本の奥方がこう(抱えるように)抱いてかわいがって、という軟弱イメージで、天下泰平の時代に流行ってた犬種なので、ガラッと世の中が変わった時に、流行らなくなっちゃった。もっとワイルドな犬、西郷さんが連れているような。ああいう・・・

朝岡:柴犬みたいな?

住吉:ええ。(ワイルドな犬)がいいって世の中変わっちゃって。

朝岡:明治以降にね。

住吉:ええ。狆のいい血統を持っていたらしいんですけど、それがちょっとあんまり世間に受け入れれなくなっちゃったもので、こりゃ困った、という話だったと思うんです。書いてないんです。こう言うことを書いたものがないんです。想像なんです。ちょっといい加減な成り行きで始めたらしいんです。

朝岡:すき焼き専門という形になったのは、明治の後半?

住吉:はっきり肉以外やってないという形になったのは、明治36年ていう風に・・・

朝岡:あ!日露戦争のね!ちょっと前ですね!

住吉:ええ、聞いてます。

石田:ちんやさんというと長寿企業でいらっしゃいますので、創業者の方の質問なんかよく受けられるんじゃないんですか?

住吉:ええ。誰が創業者なのかっていうのも実はぼんやりしておりまして、住吉やすっていう女の人が重要だったらしいんです。

朝岡:ご先祖でしょ?

住吉:もちろんもちろん(笑)そこがね、ぼんやりしてるんです。

朝岡:はははは(笑)

住吉:だから質問されると困ったなっていう。今はもう吹っ切れて、うちはいい加減だったんですよと、テレビで言っちゃってますけど。

朝岡:緩やかな、こうゆる〜い感じの老舗だったていう感じですよね?

住吉:手前どもだけじゃなくて、創業の経緯がいい加減っていうのは世の中に結構あるんだなっていうのが調べてたらわかりまして。浅草でも結構ありますね。すばらしいと言われてるお店さんも大正時代は結構そんなでもなくて、手っ取り早く儲けを考えてるだけの店だとかそういう批判を当時の作家さんに批判というかディスられたり・・・そういう記録が残ったりしてますね。

朝岡:我々ね、つい老舗・長寿企業と言いますとね、始めた人がすごく偉い人で志を持ってやるぞー!って言ってね。

住吉:もちろんそういう企業さんもありますけど。

朝岡:ありますけど(笑)!そういうイメージがあるすぎたんでね。

住吉:そうでもないことも結構ありますよ。

朝岡:いやーちんやさんのゆるい感じがすごく新鮮でしたね。

住吉:そうですか?

石田:家訓や理念なんかはあるんですか?

住吉:全然ないんです

石田:(笑)

朝岡:いいねー(笑)ふわっとしてていいと思います。

住吉:そもそも、これやってればなんとか成り立つんじゃないかとかいうことでやってました。

朝岡:ちんやさんの130年間を超える歴史の中で、これまで立派になったからちんやの社訓を作ろう!とか、住吉家の家訓作ろう!という動きとか、住吉社長も今作ろうというお気持ちも含めて、そういうのはないんですか?

住吉:歴代誰も思わなかったんです。なので、浅草は激動、いろんなこと明治維新もそうですけど関東大震災だったり昭和の戦争だったりそのあと70年の浅草の衰退だったりと結構いろんなことがあるので、あんまり整備している暇はなかったのかな?と・・・想像ですけどね。

朝岡:はい。

住吉:あとお婿さんが多かったとか。

朝岡:そうですか。

住吉:なんとなく遠慮をするところが。

朝岡:どうしてもね。

住吉:うちの祖父もそう(お婿)ですし、曽祖父も婿ですし。

朝岡:そうですか。

住吉:ええ。遠慮してる感はひょっとしたらあったかもしれません。

朝岡:とにかく味をね。味が家訓とか社訓とかみたいなものか!割り下が。

石田:そうですね。

朝岡:ね。

住吉:これなんだと(割り下が社訓や理念なんだと)

朝岡:わかりやすい(笑)そうなんだよなー。

石田:社長の思いといいますか、今いろいろこういうちんやにしたいというのがあると思うんですけれども、そういう想いはスタッフの方々にどのようにして伝えてらっしゃるんですか?

住吉:伝え方ですか?

石田:はい。

住吉:それは・・・対話でしかないですよね。

朝岡:まあ直接ね。

住吉:あとはなんだろう、1対大勢だと伝わらないことも多いですよね。社長がこうだって言うと皆「うんうん」って顔してますけど、1対1で説明してると、変な顔することとかありますよね?「あ、今目が泳いでるな。多分わかってないよな」っていうのを感じながら、「今大丈夫?本当にわかった?」っていうと「わかんなかったです」と。肉の話って実は難しいんですよ。有機化学だったりするので、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の違いとか。1対50とかで説明するとやっぱりわかってくれなかったりするので、あれですね、伝えることに能率を求めたらダメなんだろうな、と思いますね。人間のやることなのでね。コミュニケーションは能率的にはできないんだろうなという。時間はかかっちゃいますけどね。

朝岡:今社員は何人くらいいらっしゃるんですか?

住吉:今は30名くらいです。

朝岡:そうするとまぁ30人だと、今おっしゃったコミュニケーションのマンツーマンというかそういう取り方も無理じゃないですし、ちょうど良いですよね。

住吉:ええ。先ほど申しました「適サシ肉宣言」の前は本当に一人ずつ全員(お肉は)こういうことでやるんだという話をしまして、なんだかんだ1時間半くらいかかるんですよ。そもそも脂って何?という風に・・・

朝岡:あぁそれを30人分、30人にこうマンツーマンでお話して、90分・・・

住吉:90分くらいかかるんです。

朝岡:それがまたできるっていうのがね!普通の大企業になっちゃったらね、メールで伝えるとか全社朝礼でやったりとかそうしないといけないから。

住吉:朝礼もテレビだったりしてね。大きい会社さんはね。

朝岡:その辺がやっぱりね、老舗さんのね、浅草の老舗さんらしい所で良い所だと思いますけど。
住吉さんはあれですか?実は学校一緒なんですよ。

住吉:そうですね。

朝岡:学校一緒なんですよ!だいたい私たちの出る学校っていうのはサラリーマンになったりする方も多いんですけど。

住吉:そうですね。

朝岡:ちんやさんはあの6代目ですか?だからすぐ入っちゃった?ちんやさんに。

住吉:ええ。サラリーマン8年してました。

朝岡:え。やっぱりそこで組織のいろはみたいなことを勉強されたんでしょうか?

住吉:そうですね。会社ってのはこんな風にやってるんだよっていうのもちょっと体験させていただいてもらいましたね。

朝岡:小さい頃からあれなんですかね?「次はお前だよ」っていう風に、言われ続けて育ったんですか?

住吉:まあそうですね。

朝岡:そういう環境があったんだ。

住吉:そういう環境が・・・あったんですねー。

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