株式会社 山本海苔店
オープニング・創業の精神 ~家訓や理念誕生の経緯~
もちろんうちは海苔屋ですので、おいしい海苔をお客様にということで、仕入れには非常に気を遣っておりまして、基本的には全国を回って一番美味しい海苔を採れる所を探す。
現在は、九州の有明海なんですけども。そんな形で仕入れをその中でも、「どの浜が美味しいか」「どの時期のものが美味しいか」ということを綿密に調査して、仕入れる。
そして、仕入れて来た海苔は、等級別に出荷されるわけですけれども、それを買って山本海苔独自の分け方、先ほど言った8種類ではないですけれども、山本独自の目線で、もう一度海苔を「仕分」と言うんですけれども、仕分技術室と言うのがありまして、そこで海苔を専門の社員が、うちの面に合わせて「分ける」という事を繰り返し、そしてなるべく新鮮な状態でお客様にお届けするということを常に考えてやっているところが、他社にない山本の強みだと思います。
2代目のやったことが大きく2つあって。
一つ目が、「仕分」なんですけれども、もう一つが「味付け海苔の発明」ということだと思ってますので、山本海苔店は味付け海苔のパイオニアとして、一般的な味付け海苔というと、焼き海苔に醤油ベースの味ダレを塗って、乾燥させる程度のものなんですけれども、うちは色んな具材を、梅とか、ゴマとか、うにとか、いろんな具材を、フレーバーを海苔にまぶしてやっておりますので、味付け海苔のパイオニアとして「味付け海苔なら負けないぞ」という強みは、もう一つあると思います。
小さい頃から、毎日食べてて、主治医みたいな人に、「お腹の中が真っ黒だね」とか言われました。あはは(笑)
貴大:僕は、逆に山本海苔しか、食べたことがなかったので、山本海苔(店)に入って、初めて海苔業界に入って、「あっ!これも海苔なんだ」ということに気付いたことはあります。
德治郎:小さい頃から、海苔を結構食べさせて、「この海苔どう?」とかっていうのは、僕、いろんな種類ありますんで、もちろん、うちのも(山本海苔店)「これ、どう?」「美味しい?」とかって、言って食べさせてましたね。ね?
貴大:記憶にございません。(笑)山本海苔の範囲で食べさせてたんですか?
德治郎:範囲で。山本海苔の範囲で「これ美味しい!」とか「これ、美味しいね」とか
貴大:その中では、やってましたね。
德治郎:結構言ってたね。
貴大:他の海苔を食べたことが、あまりなかったですね。
~良い海苔の見分け方~
德治郎:ひと言で言えば、「色・艶・香り」なんですけれども、見た目だけではですね、味までなかなか(届かない)。もちろん、色と艶の良い物は、美味しいのが基本なんですけれども、必ずしも、そうではないところがあって。
色と艶があっても口の中で、飲み込むまでに溶けないと美味しさが出てこないわけで、柔らかい海苔っていうのが、重要になってくるので、うちはやっぱり、「柔らかい、食べて美味しい海苔」ということなんで。
基本的には、「色・艶・香り」の良い海苔が美味しと言えますね。
やっぱり海苔って、自然の物なので、うちの「梅の花」でも、幅(味や品質の)が、多少あるんですよ。仕訳なおすので、品質のレベルは、かなり一定はしていますけど、天産物なので、幅がどうしても出来てきてしまうということで、いろんな幅を見ながら、梅の花も「本当に美味しい」のから「まずまず美味しい」のから色々あるわけですよ。
だから、その辺がなかなか難しいですけれども、「安定している」という意味では、まず間違えなく美味しいのが入っているのが「梅の花」ですね。
他のうちの商品も美味しいですけど。(笑)
僕は、最近、僕の舌が正しいかどうか、世の中の一般の人と合っているかどうかっていうのが、凄く気になっていて。僕が「美味しい」って言ったものでも、世の中の一般の人から言うと、そうじゃないかもしれないって言うのは、常に意識してますんでね。あんまり、言わないようにはしていますけどね。「これは、美味い」とか「これは、ちょっと・・・」とか。海苔そのものについては言いますけど、味付けについては「これは、辛い」とか「これは、ちょっと濃すぎる」「薄すぎる」とかって言うのは、なるべく言わないようにはしてますけど、貴弘はどうなの?
それこそさっきの、うちは味付けに強みがあるということで、色んなフレーバーの味を出しているので、それ、以外のことは結構言いますね。そっちは、あんまり言わないようにしているということなので、今流行りの・・・嫌いなやつ(德治郎さんの方を向いて)「パクチー味」とかあるじゃないですか。とかは、絶対食べもしないと思います。
新商品です。って出てきても、(德治郎さんは)食べもしないと思います。
ここからは、テーマに沿って山本海苔が持つ長寿企業の知恵に迫る。
最初のテーマは「創業の精神」
家訓や理念に込められた、想いを紐解く。
私どもはずっと初代から品質第一というか、美味しい海苔をお客様にということでずっとやってきておりまして、何か決断をする時は、「これはお客様の為になるか?美味しい海苔の為になるか?」というところが一番大事だろうと言う風に思ってやってきました。
「お客様を大事にする、そして社員を大事にする」
この2つがこれがうちの大きな理念で、家訓としてはですね、先程言った2代目がいろいろ、「和と自分」にみたいなところに、3冊、4冊ぐらいあるんですが、ここに家訓のようなものが書いてあります。
そこには、原理原則みたいなことで、「和を大切に」とか、「積善(せきぜん)の家余慶(よけい)あり」とか、善を尽くすと良いことがあるよとかですね、「質素倹約」「もともと山本海苔は百姓なんだから質素に生きなさい」というような事が書いてあります。
その家訓は公開してなくて、私も社長を継ぐというか、30代の半ば頃に父から呼ばれて明治に2代目の書いた「和と自分」を見せられて読まされて、「これから店を継ぐ覚悟を固めろ」という事で、見せられました。
私も貴大に数年前に同じ事をやったということで、社員には常々、うちのポリシーみたいな事は話してますが、家訓的なのは原理原則なんで、いつの時代でも通用する指導ってことではないが、2代目の書いたものそのものを目の前にして、「これからこの店を継いでいくんだ」という覚悟をしていくには、大きな重要なイベントだなあという風に私も思ってやりましたけど…どうでした?(笑)
あんまり…。たしかに、その瞬間のことは覚えてて、社長に「あーだ」「こーだ」言われて。でも読めないんですよ。字も難しいし。言葉も難解だったので、それを読み聞かせをしてもらった事があるんですけど。あれが「お前が継ぐんだぞ!覚悟を決めろ」というメッセージとは今まだとってなかったですね。
まあ、もう一回やってもいいかな?(笑)
僕は事あるごとに、時々だして読み返してますし、彼にはまだ一度しか見せてないので、もうそれはまたそろそろ。
貴大:論語を読んでるみたいな感じで「へ~」っていう「良い事言うな~」みたいな(笑)
企業が事業を長くやっていく上で欠かせないもの。
それは「理念や想いの浸透」
ことある事にですね、同じような事をいつも、うちが百何十年と続いてきたのは、革新を続けてきて、その時代時代に合せてきたからこそ今があるんだということで、昔から江戸時代から同じ売り方を商売をしてたらもうないって言うことを僕も前の代から言われてるし、自分でもそう思ってるんで、社員には、「挑戦しろ」と。挑戦して革新を続けていかないと、うちの店は続いていかないから、「チャレンジしろ」と常々言っているし、美味しい海苔をお客様にお届けするという事は、うちのコアなので、それを忘れちゃいけないということを、本当に事あるごとに。
これは、松下幸之助さんの番頭さんで高橋荒太郎さんっていう人がいたんですが、その人の話を聞いたことがあるんですが、松下イズムを反復連打って。何度も何度もおんなじ事を反復して連打、繰り返して言えと、「私は松下幸之助のポリシーをそうやって社員に伝えてきたんだ」って言ってたことをと聞いて、自分で思い返しても、学校の校長先生とか、いろんな前の社長が言った事って、そんなに覚えてるわけでもないので、やっぱり何度も何度も同じことを言う事は大事なんじゃにかって思って。
社員は同じことを言ってるなと思うかもしれないけれども、何度も何度も言ってますね。
何度も言ってるんですけど、あんまり浸透してない・・・。
やっぱり挑戦というのは難しいので、それこそこの時代は仕組みを作ってあげないと中々挑戦しない。失敗を許容しても、失敗を評価するとか、スキル的なものが必要になってきてるのかなと僕は感じてる。
次代を担うべき者へ問う、家訓や理念の必要性
僕は凄い必要だと思っていて、色々と言い伝え的な理念がうちにはたくさんあるんですね。2代目はこういうことを言ってた。例えば3代目は「山本の看板がつく海苔には1帖たりとも不良品があってはならない」とかあるんですが、どこにも特に書いてない。
だけど、やっぱり我々は「なんでこんなに頑張って仕事しなければいけないの?」「何で残業するのか?」と思った時のよりどころになるための理念は必要だと思ってますので。
1回、3、4年前に社員とワークショップみたいな事をやって、一応、「これでやっていこう」と決めたものはあります。
明文化したね?
貴大:一応。
德治郎:確かに僕の言ってるのは…
貴大:かっこ悪いので、「より美味しい海苔をお客様に楽しんでいただく」というのが、その短いバージョンで、だいたい「我々は」から始まって、「~よって貢献する」みたいなものもあるが、それをシュッとさせると「より美味しい海苔をより多くのお客様に楽しんでいただく」ということがその短いバージョンなんですけど、だいたい「我々は」から始まって、「~によって貢献する」みたいな、一応すっごい長いのもあるんですけど、シュッとすると、「より美味しい海苔をより多くのお客様に楽しんでいただく」っていうことになっています。
~家訓や理念は時代によって変えるもの?変えないもの?~
貴大:それこそ、マーケティングの授業みたいな話になりますけど、「理念」というなら変えないべきでしょうね。
だけども、「クレド」とか、そういうやつだったら、どんどん変えていくべきだと思うので。
どちらかとう言うと今のは理念っぽいので、今のは変える必要はないんじゃないかと想いますね。
理念とか、フィロソフィー、コアコンピタンスとか、そういう変えていいものと変えてはいけないものがあって。哲学とかは変えないけど、言葉とか言い回しは変わってく、っていうのはやっぱり革新していくっていう。
さっきの仕事も革新して伝統だって言うけど、やっぱりコアの原理原則は変わらず、言い方とか、商売の仕方とかっていうのは社員に伝えていく方法も、時代に合わせて変えていかないといけない…でしょうね。だよね?
はい。
德治郎:はははは(笑)
貴大:僕が社長に、「経営理念って名文化したほうが良いよね?」って言って、社長が「良いんじゃない」みたいな感じです。それで、僕が「ワークショップやろうよ」って言って、やるとかそういう感じです。
德治郎:やっぱり僕と同じ考えの人間がミニチュアが出来ても全く意味がなくて、僕も親父と爺さんとモノの考え方とか違うだろうし、ただ、さっきのコアのところは変わらないけれども、
仕事の仕方とか、そういうものはやっぱり考え方とかは時代に合わせてなり時代とともに変えていかないといけないので、彼は彼の次の世代を、次の何十年かをやっていく為には、彼の発想っていうのが必要なんだろうなと思って、とにかく「やってごらん」みたいな事はほとんど言いますね。
だから僕は、僕も先代とかに言われましたけど、「暖簾を売るな」と言われました。
「暖簾」っていうのは、今の山本の信用の暖簾で商売をしちゃうと…丸梅で買う人はしばらくはいるけど、食べてみたら美味しくなくなってたら、誰も買ってくれなくなる。
だからそれを「暖簾を売るな」っていう。「暖簾にあぐらをかかずないで品質で勝負しろ」と。そいうことだろうなと思って「暖簾を売るな」っていうのは。それはやっぱり大事な事だし、それをしなかったからこそ、続いきてると思いますけどね。
色んな所で話してきてるんですけど、僕は銀行からきたので、利益がすごく大事だと。
銀行っていうのは利益から返済するので。しかも元銀行マンなんで、割り算が大好きで。
たとえば今年買った海苔の枚数がこうです。金額がこうですと言うと、1枚あたりの金額が出るじゃないですか?
そうすると、「1枚あたりの金額って下がったんですね。良かったじゃないですか」って言うと、財務部長とかは良かったというようになるんですが、山本家の人なんですけど、その人に言ったら「我々山本海苔店がこんなに安く海苔を買ってるようでは、海苔の未来はない」みたいな事を言ってて、「うわー」って思った事があるので、「凄いなー」って思った事があります。
凄く見てる所が中期的であり、長期的な事なので、銀行目線だと四半期だったり、半年、一年ぐらいしか見てなかったんですけど、凄い長いスパンで物事を見てるんだなと思った事はありましたね。
今回は親と子、6代目と7代目のなるべき男が、語り合う。
山本海苔店取締役社長 山本徳治郎。
専務取締役 山本貴大。
山本海苔店が創業以来大切にしている2つの心。
「それは、お客様に喜んで頂く心」と
「働いている人を大切にする心」。
嘉永2年 初代山本德治郎が日本橋「室町1丁目」で創業。
安静5年 そして襲名性である山本海苔の2代目が誕生し
現在で言うマーケティングの手法を取り入れ
顧客ニーズに応じ、海苔を8種類にして販売するなど当時としては画期的であったこの販売方法は、顧客の支持を得て「海苔は山本」と言われるようになる。
その後創業20年を迎えた明治2年には宮内庁御用達が制度として公式に始まり
明治24年には、名実ともに宮内庁御用達商人となった。
そして、明治35年 登録商標法制定と同時に「まるうめマーク」を登録し、認可される。
創業当時から使われてきた、「まるうめマーク」の由来は
創業の頃江戸前海では梅の咲く寒中には上質な海苔が取れたことと、海苔が梅の花と同じように香りを尊ぶことに因んでいる。
定番商品の梅の花・紅梅・梅の友など
梅にちなんだ商品名が多いのも、この「まるうめマーク」に関係している。
昭和40年代に入り、本社に新社屋を竣工し
駐車場側に日本初と言われるドライブスルー・ドライブインを設置。
その後、山本陽子と専属モデル契約を結び、業界を問わず日本の食文化の発展に貢献し続けている。
今回は、山本德治郎、山本貴大 親子対談の中から
山本海苔が持つ、長寿企業の知恵に迫る。