Story ~長寿企業の知恵~ 「 決断 」
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帝国インキ製造 株式会社
決断 ~ターニングポイント~

ナレーション

「決断」ターニングポイント

まずは、帝国インキ製造株式会社におけるターニングポイントとは?

澤登:

会社のターニングポイントっていうのは、時期は定かじゃないんですけれども、今の会長が社長だった時に、大手インクメーカーの下請けをやってました。

で、その時に値段交渉といいますか、その交渉に行って値上げを求めたんですけど、その時にあまりにも向こうの対応が頑なだったということで、その場で、じゃあもう辞めますって辞めてしまったんですね(笑)

朝岡:

下請けを?

澤登:

はい。で、当時の事を聞くと、確かに下請け仕事っていうのをやっていれば、大手のインクメーカーですから安定的に仕事がくるっていうことでの安定もあったんですけど、他方、自分達でやりたいと思ってることっていうのが出来ないっていうこと。

お客様からこんなの欲しいんだよって言われても応えきれないっていう歯がゆさもあったのかもしれないですけど、そういった部分のこと。

それと、他方、下請けを辞めれば自分達で自由に目指す姿に走っていける。ただし、安定性がなくなる。下請けの仕事がなくなるので、経営的に基盤が危うくなるかもしれないというそういったリスクは抱えなければいけないという。

そういった葛藤はあったみたいなんですけど。ただ、何かこうスパッと辞めてしまったみたいですね。

朝岡:

ほぉー、随分また、会社の重大な進路をね、変えるという決断をスパッとされまして、所謂、現会長ってお父様に当たるんですよね?

澤登:

そうですね。

朝岡:

ほぉー、そんな話なんかを聞いてると、現社長としては、そのお父様の決断、会社にとって大きなターニングポイントになったわけですけど、どんな風に受け止められたんですか?

澤登:

その時は、私は多分子供だったんですよね。ちっちゃい子供だったんで、何が起きたのか当然知らなくて、会社に入る直前か入った後くらいに、その話を聞いたんですね。で、その時、彼の心境っていうのは、大手の下請けでやりたい事も出来ずにただ安定性を求めてやっているよりも、彼がよく言っていたのは「野原の一本杉になる」っていう。

確かに、冷たい風であったり風雨にはさらされるし、もしかすると枯れてしまうかもしれないけれども、それよりも自分達の足でしっかり立って、そういった世間の辛いものとかも受け止めて、それでも自分達で歩んでくっていう、そっちの方を彼としては選んだんだっていう風に言っていますね。

彼がそういう風に決断してくれたお陰で、当社のスクリーン用印刷製品というところに経営資源ていうものを大きく振り分けることが出来まして、そこからスクリーンメインでやって現在の姿があるんで、我々としては感謝してるところですね。

朝岡:

杉林の一本じゃなくて、野原の一本ね!

澤登:

そんなもの本当にあるのか知りませんよ(笑)

一同:

笑い

朝岡:

いやいや、わかりやすいよ!でも、やっぱりその安定か挑戦かって、どの経営者も迫られる決断だと思うんですけども、その決断は現会長のお父様はよくぞなさって、そっからまた今の帝国インキ製造のね、隆盛というか生まれたというのは、なかなか凄い教材と言っちゃなんですけど、例が身近にあるってことですね。

ナレーション

続いて、帝国インキ製造株式会社の3代目、澤登 信成 (さわのぼり のぶなり)にとっての、ターニングポイント。

澤登:

私のターニングポイントは、まずこの世に生まれたというか、この澤登家というところに生まれたということと、そして、帝国インキ、当社に入ったこと。そして、社長に就任したということ、これがターニングポイントですね。

朝岡:

ターニングポイントというか、ターン、回る前から、だって生まれた時からですもんね、それ!

澤登:

そうですね。だから、たまに、違う人生なかったのかななんて思うことありますけれども(笑)そういうことを考えてると、別の可能性があったとするならば、じゃあやっぱりこの家に生まれたということが自分の今を決めていることなんで、ターニングポイントなのかなって思いますね。

朝岡:

やっぱり、帝王学みたいなものは、ちっちゃなうちからお父様から教えられたというか、そういう人生でした?

澤登:

いや、帝王学とかそういうのは、特に意識的に何かっていうのは教えられたっていう記憶はないんですけども、友人とかの集まりとか、クラブだったり部活とかだと、何かキャプテンとかそういうのになることが多かったので。

まぁ、そういった父の姿だったりを見て、何かしら感じてて、行動にうつしてた部分ていうのはあったのかもしれないですよね。

朝岡:

意外とお父様がこうポロッとね、演説じゃないけどポロッ、普段家族の中で言う言葉だとか、或いは、その働いてる姿とかね、親の後ろ姿じゃないけど、そういうもので色々印象深かったシーンっていうのは、今思うとあったりするんじゃないですか?

澤登:

私が、小学校卒業するまで住んでた家っていうのが、会社の敷地内にあったんですよ。で、家がありまして、事務所があって、倉庫があって、ある種、帝国インキの中で私育ってたようなものなんですね。

その時に、やっぱり働いている父の姿っていうのはたまに見ましたけど、ほとんど接待で酔っ払ってて(笑)ただやっぱり、働いてる当社の、今から思うと先輩たちの姿を見れたっていうのは非常に有り難いことでしたし。

あと、ちっちゃい時、会社の工場見学があったんですね、その時に、先程話したカーボンインキの作られる行程を見てたんですけども、その時に、家と会社というものが分かれた感覚があまりなくて自分が居る世界が作っているものってこれなんだなっていうのが垣間見えて、今でもよく思い出しますよね、カーボン工場の見学をして何かしら影響を受けてるんだと思いますね。

朝岡:

そうすると、帝国インキには大学卒業したてですぐ入社された?或いは、よくご家族の社長の系譜だと、一旦外の会社にお勤めになってから、また帰ってくるというケースがありますが、澤登さんの場合はどちらだったんですか?

澤登:

私は大学を留年してまして(笑)、ちょっとまぁ大学で部活をやり過ぎたっていうので留年したんですけども、その後アメリカに3年半程行かされまして、学生として。

朝岡:

ほぉー!お父様の命で?

澤登:

そうです。彼も、大学卒業してからだったと思うんですけど、アメリカに行ってまして、シカゴに行ってたんですね。で、私もシカゴに行きまして、そこでまぁ3年半、学生としてダラダラと飲みながら暮らしてたという。

朝岡:

普通の会社の社員としてじゃなく、学生として行って、まぁ向こうで所謂、留学という形でアメリカ社会を見て、空気を吸って、帰ってきた。お父様も何か考えさせるものがあったんでしょうね。

石田:

やっぱりご自身がそのようにされたから、是非ということだっだんでしょうね。

澤登:

どうですかね、彼は出張がちな人間で、結構海外に行くことが多くて、やっぱり海外に出て行かなければ仕事は面白くないだろう、広がりはないだろうということをきっと彼は考えていて、それで、「まぁ、おまえ行ってこいや」ということで行かしてくれたんだと思いますね。

朝岡:

で、帰ってきて入社されたと?

澤登:

そうですね。はい。

朝岡:

そういう形ね!入社されて、そして社長に就任されたのは何年前ですか?

澤登:

2年前の2015年です。

朝岡:

あーそっか。社長に就任された時と今とで心の変化みたいなのは、やっぱりあるもんでしょうね?

澤登:

あると言えばありますね。やってることを変えることまでは行けてないんですけども、それまでは、ひとつのもの、ひとつの問題ということに対して、そればかりを見てたんですけども、やっぱりAっていうことがあって、Bっていうことがあって、Cっていうことがあって、それぞれがこう繋がってって。

それでやっぱり我々の活動っていうのは出来てますし、お客さんにものを届けられるんだっていうことが見えてきて、じゃあ全体としてどういう風にしたらいいのかっていうことをより考えなきゃいけないなっていうのを思ってきました。

朝岡:

そうですよね、色々、物事ってひとつにポンっていくんじゃなくって、繋がってたり、色んな意見があったり、それをまとめて結論、成果を出さなければいけませんからね。

澤登:

ですから、やっぱり、会社なんで、時間であったり経営資源っていうのは限られてまして、全てをやろうとしても出来ないと思っています。

会長から昔言われましたのは、「何かを得たければ、何かを捨てろ」って言われまして、ですからやっぱり、今は、何かを会社として成し遂げる為に、まぁ色々会社としてやらなきゃいけないことがあるんですけども、その為にも何を捨てるべきかっていうのを判断して実際に決断していかなければいけないなって思うようになってます。

朝岡:

それ、何か実感したことあります?あぁこれ捨てなきゃいけないんだ!って、実際この2年間で。

澤登:

2年間というわけではないんですけども、今のところ私独身でして、だからそういう結婚生活とか私生活とか(笑)、それはありますね実際。

朝岡:

それは、捨てちゃだめですよ!これから手に入れるかもしれないから!最初から捨ててたら一生独身じゃないですか!

澤登:

それでもいいのかなって思ってて(笑)

一同:

笑い

澤登:

そういうこと言うと怒られるんですけども、ただ、やっぱりまだ社長業というか、いつになったらちゃんと出来るようになるかわからないんですけども、やっぱりまずそれをしっかりしなければっていうのはありますんで、やっぱりその個人的な部分っていうのは、ある程度捨てて…捨てるというか。

朝岡:

抑えて?

澤登:

そうですね。

朝岡:

我慢するというか?ね、なるほど。