Story~長寿企業の知恵~ 「 NEXT100 」
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株式会社 岩波書店
NEXT100 ~時代を超える術~

ナレーション

最後のテーマは「NEXT100年」〜時代を超える術〜。革新を続け、100年先にも継承すべき核となるものとはいったい。そして変えるべきもの。岩波書店に求められる変革とは。

朝岡:

岩波書店さんにとって、守るべきもの、変えるべきものとは?

岡本:

我々の事業は本ですよね。なので本とは何かを考えるんですよね。若い頃は色んな本を読むのが当たり前で、友人達とも本の話をする時代でしたが、それが段々変わってきた。なかなか若い人たちが本を手に取らなくなってきている。

じゃあ本ってなんなんだろう。本というのはずっとあり得るんだろうか?出版業界で言えば年々売り上げが下がっているんですね。

じゃあ本というのはこれからも読まれるんだろうかというのを我々としても考えるんですね。でも先ほど言霊という話もありましたが、人間の中の色んな経験や考えを伝えたいとか表現したいとかいうことは必ず残るだろうと思いますね。

何か引き継ごうとすれば140字じゃ無理なので、必ずまとまった言葉が必要になってきます。となったら本は残るだろうと思います。どういう形態であれ。人間社会をつくるひとつの土台だと思うんですね。

一人一人の人生の価値をつくる上でも土台になりますし。社会というのはどういう価値を大事にするかとか、優先順位をどうするかというところに成り立ってるわけですよね。

それを表現するのも言葉であるし本であるというのであるならば、私は残っていくと思います。これは確信であって。だとしたら事業としてそれがどう成り立つのかというところを考えていて。そこには変化の部分があると思うんです。内容は精神は貫く。だけどどういう形態でそれを出すかというのは、もう少し考える余地はあると思いますね。

朝岡:

昔ながらの本という形が続くかはわからないけども、その中身というか大事なところは形を変え、これからも王道として、文庫や新書を生み出した岩波としてはその器を模索中ということですね。

岡本:

電子も良い所もあるけども欠点もあるんですね。冊子体も重いとか時間に縛られるとかもちろんあるんです。本は自分から積極的に動かないとダメなんですね。

テレビみたいに見てれば向こうから発信してくれるんじゃなくて、考えながら読む、場合によっては元に戻りながらまた読む。一種の積極性がないと本当のものは掴めない世界なんです。

でも器が違っても同じものは入ってくるんじゃないかと思うんです。だとするならばどういう器が良いのか。アメリカなんかでも電子が下がって紙がまた売れ始めてるというのもあって、紙の良さ、ページをめくることの良さ、これがまた復活している気がします。

朝岡:

科学技術だと進歩という言葉で捉えられますけども、出版社だと売れるものだとか活字だとかとは別に、知性を種まく部分があって、技術だけでは計り知れない部分がありますもんね。

岡本:

そう思います。ある意味人間の全てが入っていると思うんです。

昔のギリシャ時代やローマ時代のものも読める。数千年前の仏教のものも読める。あるいは遠くサハラ砂漠に住む人がどういう事を考えているかも読める。そういうものって他にあまりないと思いますね。

テレビだろうと映画だろうと、その中から出来ているんですよ。テレビの人も映画の人ももの凄く本読んでますもんね。そういう意味で言うと、本は知の基盤であって、これが崩れると人間社会全体が危うい。基盤が崩れていくんじゃないかなと思います。