株式会社 岩波書店
言魂 ~心に刻む言葉と想い~
職業柄色んな言葉に出会うと思いますが、自分の心の中で生きている言葉があれば伺いたいのですが。
岡本:私が印象に残っているのは、学生時代に影響を受けた「世界」の編集長で、後に社長にもなられた安江涼介さんという方がおられて、10年以上一緒に仕事しました。
非常に影響を受けました。「人間は必ず死ぬんだよ」と。死ぬ前にああいうことをやっておけばよかったな、「世界」でこういうことを何で自分はやらなかったのかなと思わないようにしようじゃないかという。
売れれば良いとか、ちょっとした言葉をもてあそぶような形でウケようとか、そういうことじゃなくて、例えその場でみんなにわかってもらえなくても、ある時点で本当の事がわかるようなものをちゃんと出していくべきじゃないか。命をかけて作ろうということがありましたので。それに影響を受けたと思いますね。
死ぬ時に後悔しないようにしようと。普通の言葉なんですけどね。
岡本:そうだと思いますね。ただ、今まさにポストトゥルースとか、ポストファクツとか、事実なんかどうでもいいじゃないかという言葉。トランプさんなんかが言ってますよね。そんなバカな話はないわけで。
まさに岩波茂雄さんから安江さんから私に至るまで、その真逆をやらなきゃいかんと。言葉の真実を信じて、それを出していこうということじゃないかなと思いますけどね。
「言葉の真実」も言霊のようなものかもしれませんね。今社長ご自身が心に刻んでいることはどんなことがあります?
岡本:「世界」を創刊した1946年1月、戦争が終わった直後だったんですけども、その時に岩波茂雄がどんなことを言ったかというと、自分は戦争に反対であったと。三国同盟も反対だった。国際連盟脱退も反対だったと。
しかし私はそれを言うには言ったけれども、本当に真剣にそれに反対しなかった。だからこんなひどい戦争になって、多くの友人達、子供達が死んでしまったと。若い学徒達が特攻隊で敵艦に体当たりするような勇気を持って自分は戦争に反対しただろうか?と。我々老人が死をかけて反対しなかったからこんなひどい戦争をしてしまったんだと。
それを反省して二度とこのようなことを繰り返してはいけない。これが次の原点だと彼は言ったんですね。それは「創刊の辞」というのがあって、「世界」の一番最初の本当に薄い、紙もボロボロなんですけど、そこに書かれているのはそういうことで。こんな激しい魂の言葉をもって彼はこの雑誌を創刊したんだなと。
自分は本当に死をもって戦争に反対しなかった。それの一種の後悔の気持ちというのは私の中で刻まれているものですね。
3つ目のテーマは「言魂」心に刻む言葉と想い。強い思いと信念が込められた言葉には魂が宿り、一人の人間の人生に大きな影響を及ぼす。岡本厚が先代、家族から受けとった思い。そして現在自らの胸に刻む言葉とは。