Story ~長寿企業の知恵~ 「 創業の精神 」
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株式会社 船橋屋
オープニング・創業の精神 ~家訓や理念誕生の経緯~

ナレーション

今回のゲストは、株式会社船橋屋代表取締役八代目当主渡辺雅司。江戸文化二年、1805年の創業以来、どんな社会変化があろうと、ただひたすらまっすぐに、くず餅の磨き込みを重ね、職人の手から店頭を通じ、お客様のもとへ。一貫したこだわりとおもてなしの心を持ち続け、200年の時を超えて、多くのお客様に愛され続けてきた。人が美味しいものを口にした時、自然とこぼれる笑顔は幸せの証。そのひとつひとつが繋がることで、心豊かな社会が実現する。「江戸固有の和菓子であるくず餅の創造的継承を通じ、この心豊かな社会の実現のお手伝いをして参りたい。」そんな想いを胸に刻む渡辺雅司に、船橋屋、そして自身のストーリーを語ってもらう。

石田:

今回のゲストは、株式会社船橋屋代表取締役八代目当主、渡辺雅司さんです。よろしくお願い致します。

朝岡:

ようこそお越しくださいました。

渡辺:

ありがとうございます。

朝岡:

船橋屋という名前を聞くと、歌舞伎の屋号みたいで、いかにも歴史と伝統を感じますけれども、古いものも新しいものも、非常に事業内容豊富なようで、どんなものをやってらっしゃるかお聞かせください。

渡辺:

もともとここに置いてあるくず餅という、江戸特有のお菓子なんですけども、これを亀戸天神の参道でずっと作って売っている企業なんですね。くず餅というのは千葉の田舎で食べられていた、農家の方々がおやつで食べていたお菓子なんですね。それを商品化したのがうちの初代でして、亀戸天神の中でそのお店をおこしたのが、今から211年前になります。

朝岡:

千葉と言うと、船橋という地名がありますけど。

渡辺:

船橋大神宮というのが今もありますが、その横で豆腐屋をやっていたんです。

朝岡:

そこから。

渡辺:

そこからこっちに出てきて、出身地の屋号を取って、船橋屋とつけた。

石田:

そしてこちらに並んでおりますのが、船橋屋さんのくず餅。三種類ございますけれども、こだわり、パッケージなども伺ってらっしゃるんでしょうね?

渡辺:

広重の画をそのまま、長年使っているものですけれども、パッケージは同じものを基本的にずっと使わせて頂いているんですね。

朝岡:

ずっと変えないものというと、パッケージに450日自然熟成なんて書いてあるんですけれども。

渡辺:

くず餅というのは、実は和菓子で唯一の発酵食品なんですよ。

石田:

発酵食品なんですか?

渡辺:

実は知らない方がすごく多いんですけれども。小麦粉がベースなんですが、そこからいわゆるグルテンというものを水洗いして取って、残ったデンプンを450日くらい発酵させて作っているんですね。ですから皆様に食べて頂くお餅というのは450日前に仕込んだものなんです。

朝岡:

一年以上?

渡辺:

だから年によって、夏が暑かったりすると結構美味しかったりとか、冷夏だとイマイチだったりなどがあるので、ワインみたいに、「その年のくず餅は旨かったね」などは結構あるんです。

朝岡:

変化がある。知らなかったですね。

渡辺:

変化が全然違うんです。やはり発酵のなせる業かなと思います。

ナレーション

200年の時を超えて、人々に愛される船橋屋のくず餅。実際に試食し、その味に隠された想い、こだわりに迫る。

石田:

それでは早速頂きます。

渡辺:

黒蜜ときな粉をよくまぶして頂いて。

石田:

すごく弾力がありますね。

渡辺:

独特の弾力が、召し上がっていただくとおわかりになると思うんですが、何にも似てないような弾力が。

朝岡:

プリンとか、お餅とか、もちっとしたものはいっぱいあるけど、この弾力というのはくず餅だけですね。

渡辺:

そうなんです。発酵しないとこれが出ないんです。300日でもちょっと違うし、500日やりすぎても違う。

朝岡:

そこで450日。

渡辺:

それが今までの中の一番良い所という。

朝岡:

でもこれ、そのものに味があるというよりは、黒蜜ときな粉が一緒になって出てくる味わいで、すごくくず餅自体はシンプルですよね。

渡辺:

昔はもっと発酵臭があったんですね。あえて出してたんですが、最近それがあると、たぶんお客さんが「これ何?」っていうことになってしまうので。

例えばヨーグルトとか納豆は酸っぱくても良いけれども、くず餅が発酵してるということをご存知ない方が多いので、酸っぱいと「何だこれ」という話になってしまうので、極力それを全部消してるんです。ですから30年前と全然お味が違う。実は。

朝岡:

変化してるんですね。

渡辺:

そうなんです。仕込みの間に呼吸をするものですから、例えば音楽を聞かせてあげたりとか。

朝岡:

何を聞かせるの?

渡辺:

モーツァルトを聞かせたりとか、あとクリスタルボールってご存知ですか?水晶で作った大きいボールがあるんですが、あれを音でCDに入れて、聴かせてるんです。

石田:

くず餅に聴かせてるんですよね?

渡辺:

音楽を聴かせながら「ちゃんと良い子に育てよ」って言って。

朝岡:

お酒なんかだと聞いたことありますよ。お酒を仕込むときにモーツァルトを聴かせたりすると、味わいが微妙に変わって優しくなると聞いたことがある。船橋屋さんのくず餅もそういうものを聴かせて?

渡辺:

色々聴かせたんですけど、クリスタルボールというのが一番良くて、なんかとってもいい感じで出来上がるんですね。これ不思議なんですけど。

ナレーション

ここからは四つのテーマをもとに株式会社船橋屋八代目当主渡辺雅司の言葉から、歴史と伝統の裏に隠された物語、船橋屋が誇る長寿の知恵に迫る。まず最初のテーマは「創業の精神」。創業者の想いを紐解き、現在に至るまでの経緯、家訓や理念が生まれたきっかけと共に、今の社員へ伝え浸透させる術を渡辺雅司の言葉から読み解く。

渡辺:

211年前に亀戸天神の参道で創業したんです。昔は神社の中で商売をやるというのは、利権が凄くあったものですから、私の初代は豆腐屋でこちらに出てきて商売をする時に、すぐ商売できなかったので、植木屋に弟子入りして、少しだけ境内で店を持たせてもらって、このくず餅を始めたんですね。

よくお聞きになると思いますが、近江商人の「三方よし」という言葉が商道のど真ん中にあって、売り手がよくて、買い手がよくて、世間が良いというのを叩き込まれてこっちに出てきたと。自分の縄張り以外で商売する時は、まわりの地域をも幸せにしなくてはいけないと、そういう想いで亀戸へ出てきて。まずは地元に貢献するところから始めて商売を起ち上げていったと聞いているので、それが我々の今に至るまでの創業精神の中に入っているんですね。

だから家訓に「売るより作れ」という言葉がありまして、売ることばかり考えるなと。作れば必ず認められるんだという、いわゆる昔ながらっぽい家訓ですけれども、そういうものがずっと脈々とあるので。我々はどちらかというと商人なんですけども、作る方へのこだわりというものが凄く強い。

朝岡:

450日熟成で、あっという間に食べちゃうわけですよ。だから現代ではもっといっぱい売りたいとか、あるいはどこでも手に入るように真空パック作るとかね、いろんな技術革新と一緒に歩む企業も多いですけど、船橋屋さんはそのあたりはどうなんですか?

渡辺:

我々は「刹那の口福」と呼んでいるのですが、一瞬の幸せを楽しんで頂きたいという想いがありまして。もちろん保存料とか真空パックにすれば売上は5倍にも10倍にもなるんでしょうけども、人間というのが自然の中で生まれたものでしょうから、自然にとって頂きたいという想いがあるんですね。ですからそれが出来ないのであればそこでは売らないということなんです。ある意味、江戸時代から何も入れてないものを自然にとって頂くというのが体に一番優しいんじゃないかと。

450日かけて2日間で売るというのが江戸っ子っぽくて、潔くて、儚くて、粋だろうなと。これが江戸の粋なんだろうなと。そういうのが一社くらいあっても良いんじゃないかなと。守り続けるものがあっても良いんじゃないかなと思って、そこから愚直にずっとやっている。

石田:

そこから企業理念の「くず餅ひと筋 真っすぐに」が生まれたと?

渡辺:

とにかく真っすぐであれというのは、外に対してもそうですけれども、みんながうちのくず餅を買ってくださるというのも、ちょっとでも嘘があるものとか、そういうものを作ってたら、多分買ってってもらえないだろうと。少しでも会社の中に嘘があってはならない。常に真っすぐにいこうと。それはくず餅が白い餅に蜜ときな粉をかけるだけのシンプルなものなので、それ故に違いがわかってしまうんですね。材料もそうですし、製法もそうですし、そういうお菓子なものですから、そこに嘘があってはすぐわかってしまうんですね。

だから初めて食べて頂いた方には「これがくず餅なんですね」ってよく言われるんです。まさにそこがこだわりと言っていいのかわからないですが、正直に真っすぐに行った結果がそこに至っているという。

朝岡:

大事なものを守っていく理念、家訓というものを社員の皆さんにも伝えていくのは、やり方というか、浸透させ方があるとおもうのですが、そのへんはいかがですか?

渡辺:

あまり眉間に皺を寄せてあれをやろうと言って目標を立てるというのはあまり好きではないんですね。よく成功哲学でそういうことを言われる方もいらっしゃいますけど。どちらかというとそれは少し古典的で。今ここで楽しく良いものを作る喜びを味わうと自然にある所まで行っちゃうんだろうなと。それを組織の中に浸透させているんですね。後ろ姿が、会社に行く時もゴルフに行く時も一緒にしようという。

石田:

羨ましい会社ですね。

渡辺:

お父さんがそうやって出て行くと、それを見た子供が「仕事って良いんだな」って思うじゃないですか。社会に出るって良い事だなと思うと思うんですね。だからそうやろうよと言っているんです。

朝岡:

素敵だね~。